初期Van Halenにおいて情報が溢れていない時代でもGibson ES-335から取り外したP.A.F.をエディ自ら巻き直して、自ら組み上げたギターにマウントしたということまでは良く知られていたと思います。

しかしコアなファンでなければ、エディがピックアップを色々試していたことは知られてなかったのではないでしょうか。

かく言う自分も以前は、エディ自ら巻き上げた伝説のP.A.F.をMusic Man EVHが完成するまで使い続けていると思ってました。

それを裏付けるようなエディの発言がコレです。

「基本的に俺のピックアップは全部イカれてるんだ。ピッキングが強すぎるせいで、1弦を弾くときによくピックアップのコイルにひっかけちゃって、巻いているコイルを切ってしまう。だから俺のピックアップの出力を計測すると、必ずテスターのメーターはゼロを示すのさ。本当に壊れちゃっているのか俺にはよくわからないんだけど、おかげでユニークなトーンを得ることができる。壊れたピックアップは俺のサウンド・メイキングの重要な一部なんだ。」

そしてエディが使用してきた歴代ピックアップの中で、最も謎に包まれ、今も世界中の興味を惹いているが、例のES-335から取り外して自ら巻き直したP.A.F.ではないでしょうか。

そのP.A.F.について興味深い記事がギター雑誌に掲載されてました。

その内容はと言うと、フランケン・レプリカが発売される際にジャクソン/シャーベル・カスタム・ショップのチップ・エリスがフランケン実機を調査することができたらしいんですけど、ギターワールド誌からハムバッカーについて聞かれ「実は僕にもよくわからないんだけど、とにかくピックアップ裏には"patent applied for(特許出願中)"のステッカーが残っていた。”自分でワックスを塗った”ってエディは言うから、ピックアップを見てみるとワックスの熱で少しねじれていた。彼はコーヒーの缶にワックスを入れてストーブの上で溶かして、その中にピックアップを入れて、壊れる前に引き上げたみたいだ。初めてオリジナルを借りて分解した時、友人のピックアップ職人に抵抗値を測定してもらって、ピックアップを完全に再現しようと思ったんだ。でも、実際に測定してみると、メーターの針はピクリとも動かない。彼は”お前、何やったんだ!このピックアップは死んでいるぞ!ちゃんと取り出す時に注意したのか!って言われて、僕は気を失いそうになったんだけど、そんなはずはないと思って、何度も測定を試みた。それでも反応がなかったんで、諦めてもう一度ギターに取り付けて弾いてみると、信じられないくらい素晴らしいサウンドが出たんだ!それから何度も測定したんだけど、反応は無いままさ。このギターが何百万ドルもするギターなら、このピックアップは何億ドルもの価値があるだろうね。幸運にも僕は何も壊していなかった。技術的な見地から言ったらどうってことないんだけど、とにかく極上の”ブラウン・サウンド”を生むんだ。」と答えています。

P.A.F.のステッカーが貼られていたと言うことは、間違いなくP.A.F.ですよね。

そんな中、DiMarzioのTRUE VELVET T というピックアップを調べるため、超久々に本家DiMarzioのWeb Siteを覗いてみたら非常に興味深い記事がアップされてました。

DiMarzioB1

皆さんは既にチェックされたでしょうか?

エディ・ヴァン・ヘイレンは、Music Man EVHをシグネイチャーモデルとして使用していた時、DiMarzio製のカスタムハムバッカー(通称N1, B1)が搭載されていた訳ですが、その開発秘話が綴られてたんです。

DiMarzioの技術者でSteve's Specialで有名なSteve Blucher氏が当時のツアー用メインギターに搭載されていたピックアップをリファレンスとして聴くことができたらしいのですが、ダメージを受けたJBが搭載されていたらしいです!!(メインギターはフランケンではなさそう)

エディがJBを使っている印象がなかっただけにかなり驚きました。

エディが言うにはライヴ中に1弦がピックアップの片方のコイルのリップに引っ掛かり、その影響でJBの特性が変わりお気に入りの音になったというのです。

冒頭で紹介したエディの発言が一貫していることが分かります。P.A.F.もJBもダメージを受けていたという訳ですね。(笑)

エディはダメージを受けたJBと同じかそれ以上を望み、B1開発の出発点になったらしいです。
ちなみにデフォルトのJBはそれほど好きではないらしいですよ。

JBの直流抵抗値は通常16.4kΩなんですが、ダメージを受けたJBの直流抵抗は何と180kΩだったらしいです。

また、コイルを別々に測定すると、片方が8kΩ、もう片方が約160kΩだったようで、片方のコイルだけがイカれていたようですね。

とはいえ、イカれていた方のコイルは断線している訳でも短絡している訳でもなく、インダクターとして機能していたと推測されるほか、60Hzのハムキャンセルも確認できたので明らかに機能していると断定されたようです。

その情報を基にブリッジピックアップの開発が行われ、Steve Blucher氏が2つのコイルがアンバランスなものと、伝統的に巻いたものの2つのピックアップを用意したそうです。

ここからは皆さんご存知の話ですね。

エディが両方のピックアップを気に入ってしまいどちらを採用するのか決めかねていると、その場に同席していたルカサーがより伝統的な方法で巻かれた方を選んで決定し、通称B1になりました。

そして選ばれなかった方が、THE TONE ZONEになった訳です。

つまり、B1もTHE TONE ZONEも、極論でいえば元ネタはSeymour DuncanのJBということになる訳ですね。(笑)

また、DiMarzioがMusic Man EVHの開発に参加する前、そのプロトタイプのネックポジションにはSeymour DuncanのSH-11 Custom Customが搭載され、エディがそれを甚く気に入っていてMusic Man EVHに採用したかったらしいのですが、Starling Ball氏に説得されDiMarzioにネックピックアップについても開発するチャンスが生まれたようです。

ネックポジションに採用されたN1は、アルニコ5を使いながらエアギャップを作ることでアルニコ2と同じガウスと安定した磁場が形成され、アルニコ2よりもクリアでオープンなサウンドを作ることに成功したそうです。

この技術で特許を取得し、後にAir Norton, Air Zone, Air Classic, PAF 36th  Anniversary, そしてPAF Bridge model等で使われるようになったということです。

全く知らないエピソードだったので、思わぬ収穫になりました。